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 聞き間違いか? いやこの距離で聞き間違えるなんて有り得ない。

「…なにふざけたことを言っている」
「ふざけてる? 俺は本気だ。気に入ったものは片っ端から全部欲しい質なんでね」
「…島田は物じゃない」

 会長はふん、と鼻で笑う。ぐっと肩に回る腕に力が入って、少しだけ苦しくなった。と、いうか。ちょっと待て。さらっと流しそうになったが、今会長何て言った? 気に入ったもの? 欲しがるほど気に入ってくれたのか。まだ全然仕事をやっていないのに。

「転入生はどうした。あいつはもういいのか」
「言っただろ、気に入ったものは欲しいんだってな。手に入れてからどうするか決める」

 風中先輩は片眉を上げた。不愉快そうに顔を顰めて、一歩足を踏み出す。

「尚更やるわけにはいかないな。こちらこそ言っただろ、大切な後輩だと」
「いいだろーが、一人くらい」
「ふざけるな」

 会長が口を引き攣らせている風中先輩に向かって挑発的に笑ってみせた。会長、風中先輩に対してはこうなんだな。他の人にもこうなんだろうか? 俺は先程までの会長を思い出して首を傾げる。肩を寄せられているので、その際に少し頭が触れた。ぴくりと会長の体が反応する。

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