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 会長は今気づいたというように目を見開いて、パッと手を放した。

「てっきり仕事をやっていると思っていたんだが…」
「別になんもしてねえよ」

 会長の言う通りやましいことは何もないのだが、少し気まずそうだ。風中先輩は目を鋭く細めたまま人差し指でこっちを差してくる。

「じゃあさっき何で島田の手を握っていた?」
「それは……って、風中、テメェ島田のこと知ってんのか」

 会長が訝しげな顔で訊ねる。風中先輩も一瞬だけ訝しげな顔をして、肩を竦める。

「そりゃ、大切な後輩だからな」

 な、と笑いかけられて苦笑を返す。そしてちらりと会長を見ると、じっと風中先輩を睨んでいた。

「へえ…テメェの大切な、ねえ?」

 意味ありげに笑うと、腕を俺の肩に回した。俺はぐい、と引き寄せられ、目を見開く。風中先輩も驚いたような顔でこっちを見ていた。

「なるほど、テメェがこいつをここに寄越したわけだな」
「…そうだが」

 風中先輩はあっさりと認める。空気はピリピリとしていて、俺は先輩と会長の顔を交互に見た。

「なあ、風中」

 にやりと笑う会長。碌でもないことを考えてそうで、俺は不安になりながらその端正な顔を見つめた。風中先輩は無言だ。会長は俺を一瞥してから、真っ直ぐに風中先輩を見た。

「こいつ、くれよ」
「……は?」

 間抜けな声が出た。俺のその間抜けな声と、風中先輩の声が重なる。

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