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「……会長?」

 一体何なんだろうか。眉を顰めて会長を窺うと、手首を掴んでいた手は手の平に移動した。何だか手を握っているような気になる。つーか、手、デカイ。それにごつごつして、男らしい。少しだけドキドキして居心地が悪くなる。

「つめてえな」
「え、ああ…」

 え、それだけ? もっと何か――と変な想像をしてしまい、顔が熱くなる。手は熱くならならず、会長は手をじっと見つめているため、幸い気づかれることはなかった。ほっと息を吐く。

「手が冷たい人は心が優しいって言いますからね」

 声が上擦らないよう気を付けながら言うと、会長が、ふん、と笑った。

「自分で言うな」
「会長は暖かいですよね」
「おい、この流れで言うと俺が冷てぇみたいじゃねえか!」

 会長が目を吊り上げ、俺は笑う。そして冗談ですと言おうと口を開いた時だった。

「邪魔するぞー」

 ガチャ、という音と共に人が現れたのは。俺たちは驚いてドアの方を見る。

「……あ?」

 入ってきた長身の男――風中先輩はぽかんとこっちを見る。俺ははっとした。まだ手を握られたままだということに気付いたのだ。

「あ、あの、これは――」
「……泉田、お前、何してる」

 風中先輩は俺の言葉を遮って、低い声で訊ねる。その後俺に目を遣って、訴えかけて来る。お前は何も言うな、と。

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