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「ま、俺の才能に嫉妬ってところだな」
「そうですね。嫉妬する気持ち、分かります」
「は……?」

 見た目も良く、家柄も良く、運動はどうだか分からないが、確か文武両道と聞いたことがあるから多分できる。更にカリスマ性もある。性格はちょっと難ありな部分もあるけど、根は真面目。こんな人間がずっと側にいたら、劣等感で一杯だろう。
 素直な気持ちを述べると、会長はぽかんとした。そして、さっと口を覆うと俺から視線を逸らす。ちらっと見える耳が少し赤い。おお、とちょっと感動。

「会長、照れてます?」
「うっせえ! 黙ってろクソ!」

 ふむ、こういった可愛らしい一面もあると。ギャップ萌えってやつか。これはポイントが高いな。

「つーか仕事しろ仕事!」
「いや、会長が取り上げたんでしょ…」
「あーあー聞こえねー」

 何だこの人、と思うものの、不思議とイラッとすることはなかった。まだ顔が赤いからだろう。ふ、と笑うとぎろりと睨まれた。まったく怖くない。

「じゃ、はい、返してください」

 手の平を見せる。会長はちらりとそれを見てから、傍に置いていた書類を手に取る。

「…ほらよ」

 ばさ、と書類を俺が座っているデスクに放り投げる。おい、もっと丁寧に扱えよ。目的を失った手を引っ込めようとすると、会長が突然手首を掴んだ。


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