21

 コーヒーを注いで会長のもとへ行き、邪魔にならないところに置く。

「サンキュ」

 するりと会長の口から出た感謝の言葉に驚いて目を丸くする。会長は訝しげに俺を見上げて何だと訊ねた。

「会長もお礼とか言うんですね」
「テメェは俺を何だと思ってんだよ。さっきから」

 ひくりと口を引き攣らせ、俺を睨む。俺は今までのことを振り返って、眉を顰める。会長に何だその顔はと突っ込まれる前に、言った。

「俺コーヒー淹れるだけじゃなくて片付けとかもしたんですけど、その時は何も言われませんでしたよ」

 会長は黙った。そして無言で視線を逸らし、首の後ろを擦った。

「……助かった」

 少し照れている会長が面白くて、笑みが零れる。会長は驚いたようにこっちに視線を向け、舌打ちした。

「……早く、仕事しろ」
「はいはい、分かってますよ」
「二回言うな!」
「はーい」
「伸ばすな! うぜえなテメェ!」

 俺は声を上げて笑いながら隣に座る。会長をからかうのは結構楽しいなと思いながら。

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