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 コーヒーを淹れたのはいいが、カップはどれを使ったらいいんだ? 一度カップが並ぶ棚を隅から隅まで眺めるが、当然分からない。一応デザインごとに並べられているから、もしかしたら一人一人のカップの場所が決められているのかも。単に几帳面な人が並べただけなのかもしれないけど。しかし、上品なカップが並ぶ中、シンプルなカップも置いてある。誰の趣味だろう。とりあえず会長ではなさそうだ。…兎に角訊いておかないと、面倒なことになるな。
 俺は給湯室から顔を出して、あの、と声をかける。声に気付いた会長が顔を上げる。

「何だ」
「カップって、どれを使ったらいいですか?」
「ああ、言ってなかったな。棚の左上にあるモノトーンのカップが俺のだ」
「え」

 あれ、会長のだったのか。意外だ。もっとゴージャスで高そうなものだと思ってたのに。俺の表情が気に入らなかったのか、眉を顰める会長。

「んだよ、その顔は」
「いや…ちょっと意外だったもので」
「別にいいだろ、どんなの使ったって。……ああ、そうだ、お前もコーヒー飲んでいいぞ」
「あ、はい。いただきますね」

 ……で、俺はどのカップを使えばいいんだ?
 じっと見つめていると、会長が少し悩んだ後に言った。「…カップは、俺の使え」

「じゃあ、お借りします」

 俺は再び給湯室に顔を引っ込めて、カップを手に取る。少し上にあるから、爪先立ちで。慎重に。

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