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 転入生たちがこの階にやってきて、慌てて隠れたが会計だけは俺に気づいて、意味深な笑みを浮かべたことを簡潔に伝える。会長は何かを考えるように口に手を遣って眉を顰める。

「荒田が…?」

 荒田……会計の名前か。俺は会長をじっと見つめる。やがて会長は顔を上げ、俺と視線を合わせた。

「あいつの考えてることは俺でも良く分かってねえ」
「そうなんですか?」
「秀のことが好きには見えねえのに、一緒にいるしな」

 ああ、と頷く。それは俺も思ったことだ。俺に対して友好的な表情さえ浮かべたし、本当に謎だ。しかし、転入生のことを好きなわけではないのなら、それはそれでいい。会長一人で仕事をしなくていいのだ。会長がどれだけ優秀な人でも、一人でこなせる仕事ではない。
 風中先輩には頼まれてないが、会長をこのままにしておくのもなんだし、会計の説得をしてみようか。

「おいテメェなに考えてんだ?」
「え?」
「あいつを説得しようだとか考えてんじゃねえだろうな」

 ぎくっ。なぜ分かったんだろう。
 顔に出てしまったらしく、会長は呆れたように俺を見た。

「馬鹿か。余計なことしてんじゃねえ」

 余計なこと…。そうか、会長がそう言うなら仕方ない。でも、なんかもやもやする。
 俺のそんな心情も悟ったらしい会長が口角を上げる。

「ま、テメェがそんなに俺を助けてえっつうなら、仕方ねえな。テメェにもできる仕事を与えてやるよ」

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