15

 ゆっくりとドアを開ける。生徒開室のドアは普通に開けただけでも結構デカい音が鳴る。静かに開けたとてそれはさして変わらなかったが、会長を窺うと出て行く時と同じ体制で、同じ真剣な表情で書類に向かっていた。やはり根が真面目なんだろう。今真剣なのが、仕事が終わらなくて焦っているだけだとしても、投げ出したり適当にしない。格好いいな、と素直に感じた。
 「あのー、会長」集中しているところ悪いが、ちょっとだけでも休憩して貰おう。そう思って声をかけると、会長は漸く顔を上げた。その顔は不機嫌そうで、邪魔するなという気持ちが伝わってきた。少し申し訳なく思いながら、買ったばかりの缶コーヒーを差し出す。会長は訝しそうにそれを見た。何だこれ、と言われもしかして会長は缶コーヒーの存在を知らないのではとアホか勘違いをした俺は、名前をそのまま口にする。するとますます顔を歪める会長。やはり普通に知ってたか。しまった、馬鹿にしたと思われただろうな。

「俺が言ってんのは、何で俺にこれを渡すのかってことだ」

 じろりと探られるように見られる。俺は正直に答えた。「いや…休憩も必要かなあ、と思いまして」

 会長は無言でゴミ山があった場所を見る。何を考えているのかすぐに分かった。俺は片付けが終わったことを告げる。そしてゴミ山に混ざっていた書類を会長のデスクに置く。会長の顔が青くなり、引き攣る。仕事が全く分からない俺でもこれがやばいことが容易に分かる。
 せめて会長だけじゃなくて他の役員がいれば…。というところで、会計の顔を思い出した。

「会長、会計ってどういう方なんですか?」
「はぁ?」

 思ったまま疑問に出すと、突然何を言い出すんだという顔で俺を訝しげに見る。

「どうって…何でんなこと気にすんだよ」
「実は先程見かけたんですけど、他の役員の方とはちょっと違うように感じたので」
「は…見かけた?」

 会長は転入生のことが好きみたいだから言うのが躊躇われる。どうしようかと考えていると早く言えと急かされた。仕方ない。言おう。


[ prev / next ]



[back]