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 こうして会うことがなければ顔はおろか存在すらも思い出すことはなかったかもしれない。俺は島田の個人情報をもう一度上から下まで眺め、机の引き出しに仕舞う。そしてペンを握り、紙に走らせた。くそ、これ終わるのか。俺は再び後悔して、ぐしゃぐしゃと髪を掻きたい衝動に駆られる。しかし今は島田がいる。一般生徒の前でそんなみっともない姿を見せるわけにゃいかねえ。息を吐きながら眉間を揉むと、集中して仕事をし続けた。






「あのー、会長」
「あ?」

 島田が立てるがさがさとした音。ペンの滑る音。突然その空間を壊したのは島田だった。集中力が途切れ、俺は眉を顰めて顔を上げる。

「これ、どうぞ」

 そう言って差し出すのは自販機で良く見かける缶コーヒーだ。

「は? ……んだ、これ」
「缶コーヒーですけど…」

 不思議そうな顔をする島田。ちげえ。んなこたあ分かってる。馬鹿にしてんのかこいつは。

「俺が言ってんのは、何で俺にこれを渡すのかってことだ」
「いや…休憩も必要かなあ、と思いまして」

 これ、どこで買ってきたんだ。片付けは――と、例の場所を見てみると、山積みにあった俺の私物が綺麗になっている。

「あ、片付けは終わりましたよ」

 「はいこれ混ざってた書類です」デスクに書類の束をどんと置かれる。その量に口を引き攣らせた。

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