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(side:貴志)

 俺はこっそりと顔を上げ、奴――島田の様子を伺う。最初はあんなに嫌そうだったのが、今では真剣な顔つきで片付けている。頬杖を付いて、少し眺めてみる。顔は…不細工とまではいかないが、別段整っているわけでもない。しかし…堂々と俺に意見するところは普通じゃねえ。そもそもこうして生徒会室に入っていること自体が普通じゃねえ。
 じっとりと観察していると、不意に島田がこっちを見た。視線が合って、一瞬だけ心臓が跳ねた。島田も目を丸くして数回目を瞬いた。

「あの…なにか?」
「…み、見てんじゃねーよ!」
「は? …はあ」

 島田は良く分からないという顔をしながら、作業に戻る。俺は書類に視線を戻した。正直、島田がいなかったらやばかったかもしれない。どうして仕事を溜めてしまったんだと後悔した。誰よりも仕事が大変なのは知っていたはずなのに。
 結局島田が何の目的でここへやって来て俺に仕事をしろと言ったのかは良く分からないままだ。素直に教えてくれないだろうから、少しずつ探っていくか。とりあえず、と書類の下に置いていた紙を取り出す。特待生枠で入学した外部入学生。――島田駿。そういえばどんなやつかと一度生徒会の奴ら皆で見に行った覚えがある。しかし秀と違って興味を惹かれる奴ではなく、すぐに記憶から消え去った人物だ。


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