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「何で俺がゴミを片付けないといけないんですか!?」
「だからゴミじゃなくて俺のもんだっつってんだろ!」

 ゴミ山を指差して叫ぶと、会長も叫び返してきた。そしてふうと息を吐くと、にやりと笑う。

「そこにも書類があるはずだからな。俺は仕事しなきゃなんねえだろ。片付ける時間がねえ。だから、俺の代わりにテメェが片付けろ」

 一瞬ああそうかと納得しかけて、いやいやと考えを振り払う。だからって俺がする必要はないはずだ。……でも、他の役員を説得する時間がないのも片付ける時間がないのも事実だ。

「…わかりました」

 仕方なく頷くと、会長はゴミ山をちらりと一瞥して、書類に視線を落とした。

「……ああ、あと、そこの死骸もどうにかしろ」
「死骸…はっ!」

 そういえば殺したまま放置していた! まさか、踏んでないよな…? 恐る恐る靴の裏を確認するが、それらしいものはついていない。次いで死骸を確認すると、先程潰した形のままだった。少しだけほっとするが、そのグロテスクなものをこれ以上見たくなくて視線を逸らす。不満を目で訴えかけてみるが、会長は俺のことなんてまったく見ていない。一応書類に目を通し、さらさらと何かを書いている。
 俺は諦めてゴキブリの処分をした。なるべく視界に入れないように、ささっとゴミ袋に詰めて、部屋の隅に置く。
 腕まくりをすると、よし、と小さく呟いてゴミ山に手を伸ばした。

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