4

 いらっとした俺はゴキブリを退治した書類に視線を落とし、提出日を確認して突きつける。

「この書類、今週の金曜日――つまり三日後に提出のようですが、見たところ全然手が付けられていませんね。ゴミか私物か知りませんけど、提出する大事な書類が、しかも期限が迫っているものがどうしてここにあるんですか」

 ぎろりと睨むと、会長は唇を噛んで黙った。気まずそうにしているのを見て、少しだけほっとする。どうやら罪の意識はあるようだ。そこまで落ちこぼれていないらしい。これならまだ説得できる。

「好きな人にアタックするのは勝手ですが、自分のやるべきことを見失わないでください」

 いいですか、と訊くが返事がない。おいおい、嘘だろ。なんでだ。それでは何と言えばいいか、と考えていると、会長が小さく何かを呟く。

「え? なんですか?」

 一部しか聞き取れず、俺は耳を近づけ聞き返す。

「仕事をしていたら…あいつらに、秀をとられる」
「秀…は転入生のことですよね。あいつらって?」
「秀を好きな奴らだ」

 ああ…なるほど。顔と名前がいまいち思い出せないが、風中先輩に転入生のことが好きだという人の名前を聞いた。結構な数がいたから、競争率が高いんだろうな。だから仕事を放ってアタックに夢中ってことか。……まあ、気持ちはわかる。俺もゲームをやりたくていろんなものを放り投げた過去がある。…でも。

「仕事と恋愛、両立させましょうよ、会長」
「……だから、それは――」
「もしかして、できないんですか? 会長ともあろう方が」

 俺は目を細める。口の端を意地悪く上げると、会長が瞠目した。

[ prev / next ]



[back]