23

 よいしょ、と須藤が俺の横に腰を下ろす。俺の顔を見て、意味深に笑った。まさか居座るつもりなのかと身を縮こませた。

「武山くん、きみ、龍崎さんのことは好き?」
「えっ…」
「ああ、別に難しく考えなくていいよ。好きか嫌いで言ったら、どっち?」

 須藤がすっと目を細める。何だか、気軽に答えてはいけないような、重々しい空気だった。

「す、…好き――です」
「へえ、好き」

 須藤は目を丸くした。そして、にんまりと横に口を広げた。

「くくっ……っははは、はははは!」

 それは突然だった。須藤はおかしくてたまらないという風に大きく口を開けて笑っている。

「な、なんで笑うんですか?」

 俺は訊ねた。須藤の様子は何だか異様だった。緊張からか、ばくばくと心臓が煩く鳴っている。

「なんでって? そりゃあ面白いからだよ。ああ、おかしくてたまんないね。……ねえ、武山くん。羽取くんには会った?」
「え…いえ」

 すると須藤は息を吐いた。少し安心しているように見えた。

「うんうん、そっか。もう会っちゃ駄目だよ。お互いのためにね」

 そう言うと、須藤は龍崎の机の上をちらりと見て、再び意味深に俺に笑いかけると、部屋を去って行った。残された俺は、言い知れぬ不安で一杯だった。

[ prev / next ]



[back]