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記憶の中の家族とは違う。笑顔を浮かべる母親。仲の良い兄弟。休日に遊んでくれ優しい父親。俺は立つことができなくてその場に座り込んだ。言いようのないこの感情。俺は頭を抱える。ぎゅっと目を瞑ると、母親の笑みが浮かんだ。兄弟も、父親も都合のいい空想だった。でも、母親だけは違った。俺に唯一愛情を注いでくれた。
『この子だけは殺さないで』
ぐにゃりと笑顔が歪む。黒い塊を向けられた俺を庇うその人物は。
「あ…あぁ…」
あれは、俺を唯一愛し、俺が唯一愛していた女性であった。
『化け物を庇って逝っちまうなんて、馬鹿な女だ』
そう言って笑うのは、俺を殺しにきた男だった。確か殺し屋だった。俺を疎んでいたクソのような父親と兄。奴らの狙いは俺だったが、予想外にも母親が俺を庇って死んでしまった。余計に俺を憎むようになった奴らは言う。お前のせいだと。
俺は生まれつき化け物だったのだ。姿を消したり現したり、怪我を治したり。他にも色々なことが出来た気がする。あの頃は力をコントロールできなかったから、周りから白い目で見られていたわけだけど。
羨ましかった。本当の人間が。普通の生活が。だから、俺は……。
「母さん…」
いつの間にか父親と俺はいなくなっていて、代わりに笑顔を浮かべた母親が立っていた。柔らかなその笑みは、じわりと俺の心を温めた。
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