17

 もとより龍崎のことは良く分からないが、今は更に理解できない。俺はじっと待つ。龍崎から何かアクションがあるまで。
 ゆったりとした空気が流れ、段々眠くなってきた。しかしこんなところで寝るまいと必死に目を開ける。眠気が吹っ飛ぶようなことをしてほしい。それこそ、暴力をふるうとか。でも流石に自室ではしないだろうか。血とかで汚れたらいけないしな。というか待て。冷静になるんだ俺。自ら暴力を望むなんてどうしたんだ。眠気が吹っ飛んだどころではなくなりそうだ。でも、今の龍崎はいつもより穏やかだから、もしかしたら軽い暴力で済む可能性もある。――と考えるものの、怖くて実行できない。
 そうしているうちにもう目を開けられなくなって、俺の意識は沈んでいった。













『汚らわしい化け物め』

 一人の男が、小さな子供に向かって吐き捨てた。顔に靄がかかって誰だか分からない。俺は、この声を聞いたことがある気がした。子供に目を向ける。はっとして目を見開いた。

「――あれは、俺だ」

 口に出すと、一瞬だけ子供の俺がこっちを見た気がした。

『お前のせいだ。お前のせいだ!』

 男が叫ぶ。嫌悪に満ちた叫び声だった。俺はこの男が誰なのかを思い出す。靄が晴れて、.顔が見えた。少し懐かしく嫌悪を覚える男の顔。男は間違いなく、俺の父親だった。



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