16

 やがて龍崎は立ち止まる。勢い良く襖を開けると、目の前に広がる和室。書類のようなものが置かれた机や本棚に占められた大量の本。もしかしてと思う。ここは龍崎の部屋ではないだろうか。こっそり様子を窺うが、龍崎は無言で座り込んだ。そして窓を開け、煙草を吸い始める。座れとも言われず、どうすればいいか分からない俺は、傍で突っ立っていた。
 ぼんやりと昇っていく煙を眺める。昔は煙草が嫌いだった気がした。しかしそれももう曖昧で、苦手だったか、そうではないか分からない。ただ言えることは、今はもう慣れてしまったということ。好きとも嫌いとも言えない感情で、俺はすんと鼻を啜った。

「あの、ここは」

 龍崎もリラックスしていることだし、今なら良いのではと思って声をかける。こっちに向けるその目はいつもより心なし穏やかだ。

「俺の部屋だ」

 やっぱりそうか。俺は、はあ、と気の抜けた返事をする。何か気の利いたことでも言えば良かったのかもしれないが、何も思いつかなかった。

「まあ座れや」

 俺の反応で特に気分を害した様子はなく、促してくる。漸くここで許可を貰えたので、俺は遠慮なく座った。何となく正座で。龍崎が正座する俺を見て、鼻で笑う。
 ところでどうして龍崎は俺を部屋に招いたのだろう。いいところだと言われても、いや、まあ確かにいつもの部屋よりは何十倍もいい部屋だが、だからどうしたというのだろう。ただ自慢したかっただけ? 良く分からない。

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