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 むっとした気持ちが表に出てしまったのか、龍崎は馬鹿にしたように笑った。しかしその目は優しく、ざわざわと胸が騒がしくなる。男でも見惚れる端正な顔立ちに優しく見つめられ、顔が赤くなる。俺はじりじりと後ろに下がった。龍崎が近づく。俺はまた下がる。それが何度か繰り返され、遂に背中が壁にくっついてしまった。とん、と龍崎の手が顔の横についた。これはもしや壁ドンとかそういうのでは…。目を白黒させる。段々と顔が近づいてきて、焦点が合わなくなった頃。唇が温かいものに包まれた。
 ――え。
 さあっと血の気が引いていく。一体、何だ。どういう状況だ。どうして俺は、龍崎とキスを…? パニックで抵抗することも忘れ、ただただされるがままの俺。一度離れた熱が、角度を変えて再び近づいてくる。俺はぎゅっと目を瞑った。すると、感触がよりリアルに感じられ、かあっと全身が熱くなる。

「っふぅ……! っん…は、ぁ」

 深い。普通のキスですら片手で数えるくらいしか経験のなく、初めてのキスに力が抜ける。初めてが男って、最悪だ。息が苦しくなった頃、漸くキスが終わった。つ、と銀の糸が俺たちの唇を繋ぎ、すぐに離れる。それをぼんやりとした頭で眺める。

「下手くそ」

 あんたが上手すぎるんだろ! 俺は心の中で叫んで、龍崎を睨みつける。龍崎の片眉が上がるのを見て、しまったと我に返る。つい睨んでしまった。

「……なんで」

 俺に、キスなんか。こいつならば、自分から動かずとも勝手に女が寄ってくるだろうに。そんなに俺の唇が魅力的だったのだろうか。……って、自分で言ってて気持ち悪いな。

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