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 傷が塞がりそうになる度、傷を抉られることの繰り返し。漸く唇が放された時には傷も塞がっていたが痺れていた。永遠とも感じられたこの拷問めいた行為は、今までで一番きつかった。
 ほっとするも、今度は俺の頬に手を当てる。どきりとした。なぞるように指を動かすそれが、優しいからか。真剣な顔をして俺を見ているからか。

「――何故庇った」

 言うまでもなく、羽取のことだ。俺は小さな声で理由を述べた。

「見たくなかったから…」
「あ?」
「人が、俺の所為で死ぬのはとても…嫌だから」

 一瞬だけ龍崎は納得したようだったが、すぐに訝しげな表情になる。指が涙袋を数回叩く。


「泣く必要はねえだろ」
「…どうして、そんなことを知りたいんですか」

 思ったまま疑問を口に出してしまった。ハッとして俺は謝ろうとしたが、龍崎が言葉を被せてきた。

「腹が立つからだよ」
「は……」

 腹が立つ? ……何で?
 いったい何に、何で腹を立てているのか分からずぽかんとすると、龍崎が鼻で笑う。

「不細工な面だな」

 俺は決して不細工ではないと思う。至って普通の顔つきだ。そりゃ、龍崎に比べたら不細工の部類に入るけどさ。

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