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 どうしたのだろう。気になって羽取を見つめるが、俺の視界を遮るように須藤が俺の前に立つ。
 俺の肩に両手を乗せ、耳に口を寄せると、楽しそうに囁いた。

「中々楽しかったよ」

 ぞくりと背筋が震える。くすくすと笑うと、俺の体を押した。

「さ、龍崎さんを待たせちゃうから行こうねえ」

 俺はなすがまま歩き始める。もう一度振り返るが羽取の顔は見えなかった。













 一日も立たず帰って来た無機質な部屋。龍崎は俺の首根っこを掴んで放り投げる。うぐっと呻くと、龍崎は鼻で笑う。

「手間かけさせやがって」

 龍崎は俺を見下ろす。視線は合わず、何を見ているのかと視線を辿ってみると、撃ち抜かれた俺の手だった。まだ傷は完全に塞がり切ってはいない。痛みも最初ほどではないが少しある。
 しゃがむと、俺の手首を力強く掴み、引き寄せた。瞳は野獣の如く、ぎらぎらと光っている。危機感を感じた次の瞬間、手に激痛が走った。

「っああああ!」

 龍崎の鋭利な歯が刺さっている。そのままぐりぐりと傷を抉られる。――喰われる。

「ひっ…う…」

 赤い舌が血を舐めとる。まるで何かの生き物のように動くそれ。生々しい音がして耳を塞ぎたくなるが、できない。俺はぎゅっと目を瞑って痛みと手を這う舌に耐えた。

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