▼ 7
頭の中に映像が流れ込む。俺に向く刃。恐怖で動けない俺。刺さる直前に、誰かが立ち塞がる。あれは――誰だったか。
「ころさな……っで!」
俺は龍崎に縋り付いた。ぽろぽろと涙が出て来る。溢れる液体の理由は、忘れかけていた記憶のせいか、痛みのせいか、羽取に死ぬのを見たくないからか……。恐らく、全てだ。
「…な…」
涙で顔は見えないが、何となく、困惑しているのではないかと思った。龍崎のそんな顔なんて、レアだろう。見られないのが、少し惜しい。
「若…?」
羽取も困惑しているようだった。近くで溜息が聞こえた。そして、くすりと笑う声も。
「龍崎さん、今回は見逃してあげてもいいんじゃなーい?」
「こんなに泣いて頼んでるんだから」龍崎は無言で俺の顔を拭く。クリアになった視界に、考え込む龍崎の姿が映る。
「何…? 泣いて、いるのか?」
「うん、ころさないでえ、ってね」
それは俺の物真似だろうか。そんなに情けない声だったかと恥ずかしくなった。
「……今回だけだ」
そして俺を突き飛ばすと、踵を返した。俺は須藤に受け止められ、目をぱちぱちと瞬かせる。こちらに顔も向けぬまま歩いて行く龍崎の背中をじっと見つめた。
「良かったねえ、羽取くん。武山くんに感謝しなよ」
須藤は羽取に目を向ける。羽取は、浮かない表情をしていた。
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