7

 頭の中に映像が流れ込む。俺に向く刃。恐怖で動けない俺。刺さる直前に、誰かが立ち塞がる。あれは――誰だったか。

「ころさな……っで!」

 俺は龍崎に縋り付いた。ぽろぽろと涙が出て来る。溢れる液体の理由は、忘れかけていた記憶のせいか、痛みのせいか、羽取に死ぬのを見たくないからか……。恐らく、全てだ。

「…な…」

 涙で顔は見えないが、何となく、困惑しているのではないかと思った。龍崎のそんな顔なんて、レアだろう。見られないのが、少し惜しい。

「若…?」

 羽取も困惑しているようだった。近くで溜息が聞こえた。そして、くすりと笑う声も。

「龍崎さん、今回は見逃してあげてもいいんじゃなーい?」

 「こんなに泣いて頼んでるんだから」龍崎は無言で俺の顔を拭く。クリアになった視界に、考え込む龍崎の姿が映る。

「何…? 泣いて、いるのか?」
「うん、ころさないでえ、ってね」

 それは俺の物真似だろうか。そんなに情けない声だったかと恥ずかしくなった。

「……今回だけだ」

 そして俺を突き飛ばすと、踵を返した。俺は須藤に受け止められ、目をぱちぱちと瞬かせる。こちらに顔も向けぬまま歩いて行く龍崎の背中をじっと見つめた。

「良かったねえ、羽取くん。武山くんに感謝しなよ」

 須藤は羽取に目を向ける。羽取は、浮かない表情をしていた。

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