3

 しかしそんな俺の心情を見透かしたように、羽取の手に力が籠められる。振り払えそうな気はするが、自信はない。とりあえず、今は大人しくしていることにしよう。不意を突けそうな時、我武者羅に走って逃げればいい。どんなに無様でも、目撃者はいない。
 それに、確実に逃げられる時ではないと、もしかしたら羽取ではなく龍崎達に捕まるかもしれない。最悪なパターンだ。

「武山くん、ここに座ってくれ」

 羽取がくいっと手を下に引っ張る。考え事をしていた俺は、なすがままにその場に座り込んだ。柔らかい感触が俺の体を包み込む。暗闇に目が慣れてきた。俺が今座っているのはソファのようだ。埃っぽくはない。良く使うのか、それとも掃除する人がいるのか。まあ、それはどうでもいいことだ。羽取が隣に腰掛ける。体が傾きそうになるのを抑えた。

「…きみ、煙草は嫌いじゃないか? 大丈夫なら、手を挙げてくれ」

 俺は目を瞬かせる。煙草?

「まあ、別に…」

 小さく答えて、手を挙げる。羽取は少し口を緩めると、ポケットの中から何かを取り出す。ライターと煙草の箱だった。慣れた手つきで火を点けると、それを咥えた。
 驚いた。羽取は喫煙者なのか。潔癖で生真面目なイメージがあったから、煙草は吸わないと思っていた。ゆらゆらと上がる煙を眺める。羽取はリラックスしている様子だった。
 ――何故、そんなにリラックスしているんだ? 俺のこの妙な不安は、なんだろう。

[ prev / next ]



[back]