27

 それから、羽取は毎日俺のもとへ通った。しかし、須藤が居る時は俺に話しかけることはなかった。須藤は忙しいのか、俺に飽きたのか、来る回数は減った。
 決行は明日らしい。俺をここから出す準備ができたようで、明日は須藤もいないという。俺は羽取から聞いた話に、相変わらず鎖で返事をした。視線は俺の目ではなく、鉄の塊に注がれている。
 俺はまだ、迷っていた。本当に逃げて良いのだろうか。羽取を、見殺しにして……。だが、逃げたいという気持ちも強い。今は龍崎がいないから平和だが、奴が帰ってきたら俺はまたサンドバックだ。今まで以上に酷いことをしてくるかもしれない。……嫌だ。
 こんな中途半端な気持ちのままで大丈夫なのだろうか。俺の気持ちに気づかない羽取は、決行の時間を告げると、去って行った。















 鎖ががしゃんと音を立てた。俺はハッとして目を開ける。手首が軽い。見ると、手首を覆う金属と鎖が分離していた。というか、壊されていた。顔を上げる。羽取だった。真剣な目つきで俺の手首を眺める。目を閉じ、息を吐くと、目を開けて静かに言った。

「――行くぞ」

 俺は小さく頷いた。そして、これじゃ分からないかと思い直し、手首を何度か振ってみる。羽取に伝わったようで、目元が一瞬だけ緩まった。

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