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「では、もう一つ。…きみは、ここから出たいだろう」

 確信めいた質問だった。羽取は答えを知っている。しかし、俺はどうすればいいのか分からなくて手を挙げられずにいた。自分の所為で人が死ぬということが恐ろしい。それが、どんな人であれ。
 俺が手を挙げないと分かったのだろう。羽取は小さく溜息を吐いた。

「…俺のことは、気にしなくていい。正直な気持ちを、教えて欲しいんだ」

 羽取は真摯に訴えかける。やはり、どうしても俺を追い出したいみたいだ。分かってはいるが、少し傷つく。
 俺は床を見つめながら、そっと手を挙げる。軽く手を挙げただけなのに、鎖がやけに煩い。運動した後のような心拍数だ。

「そうだろう、やはりな」

 羽取は安心したように頷いた。そして自身の腕時計に視線を落とす。

「そろそろ時間か…。武山一樹くん、後日、また」

 そう言い残して、羽取は去って行った。暗い空間に俺だけが取り残される。逃げたら、どうしよう。とりあえず見つからない場所まで行くか。俺は他の奴には見えないから、目撃証言なんてない。でも、もし、万が一にでも見つかったら…? 今度こそ、ダルマにでもされるかもしれない。俺は闇を見つめて、少し早まったかも、と後悔した。

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