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 あの男の考えていることは良く分からない。羽取は不愉快そうに顔を歪めて、吐き捨てるように言った。

「…ふざけた男だ」

 羽取は人差し指で眼鏡を押し上げると、一歩俺に近づいた。何をするつもりなのかと俺は無言で見上げる。

「きみに幾つか質問をしたい。手を挙げて、答えてくれ」

 俺は、分かった、という意味を込めて手を挙げる。金属音が鳴って、羽取は目を細めた。

「…ありがとう」

 これは、俺としてもチャンスだ。羽取が俺をここから連れ出してくれれば、俺はこの薄暗い空間から抜け出せる。――だけど、その後の羽取のことを考えると…。俺のせいで羽取が殺されたら…。だから俺は、逃げ出したいとアピールするのを躊躇している。須藤はそんな俺を分かっているのかもしれない。だから俺に鎖をつけて、羽取に存在を知らせても逃げないと踏んでいるのか…。そうだとしたら、中々に性格の悪い男だ。

「きみは本当に怪我の治りが早いのか」

 俺は手を挙げる。羽取は再び質問してくる。

「しかし、痛みは感じる――そういうことだな」

 再び手を挙げた。じゃらじゃらと煩く金属が鳴る。羽取はひとつ頷いて、顎に手を遣った。

「若と須藤が執着するのはそこか…それとも…」

 執着…あいつらが、俺に? ストレス発散に丁度いい玩具だからではないのか? 考え込んでぶつぶつ呟いている羽取を見上げながら、首を傾げた。

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