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 羽取が再び俺のもとへと訪れたのは、翌日のことだった。何が何でも俺のことを追い出したいらしい。もしかしたら、龍崎が帰ってくるまでここへ毎日通うつもりかもしれない。俺としては暴力をふるわれるわけではないため、問題はないが自分を良く思っていない人物が々空間に存在するということは中々にストレスが溜まる。

「…須藤は、いないんだな」

 俺は思わず呟く。あの妙に明るい声で話す狐のような男は、今日はいないらしい。羽取の背後を体を起こして見るが、姿はない。
 当然俺の言葉は羽取には届かず、無機質な空間に吸い込まれていった。体を動かすと、昨日去り際に須藤に付けられた鎖がじゃらりと音を立てた。

「――そこに、いるのか」

 羽取は一瞬だけびくりとして俺を見る。相変わらず視線は合わないが、確かに俺を見ている。その顔は少し青白い。鎖が勝手に動くのを想像し、納得して頷いた。怪奇現象だ。

「俺はここにいる」

 言葉で伝えても、相手には届かない。それならば。俺は手を持ち上げる。最近ずっと体を動かしていないため持ち上げた腕がぎしりと音を立てた。痛い。筋肉痛みたいな痛みは、なぜだか治りにくいらしい。
 がしゃん、と鎖が床に叩きつけられる。手首を覆う金属の塊が宙に浮いているように見えるだろう。

「…返事を、してくれているのか」

 羽取は少しだけ目元を緩ませる。しかしすぐに鋭く細まり、鎖を見つめる。

「この鎖は、須藤だな…。あいつは一体、なにを考えているんだ……」

 忌々しそうに呟く羽取。確かに、と俺は眉を顰める。まるで、羽取に俺の存在を知らせているような……。

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