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 羽取は、須藤に俺をなんとかしてほしかったに違いない。俺のことが見えないのだから、須藤か龍崎にどうにかしてもらうしかないのだ。だからこそ須藤のいるここで、そんな話をした――しかし、羽取が望むような結果にはならなかった。俺も意外だった。須藤ははいどうぞと俺を渡しそうな気がした。しなかったのは、自身の暇つぶし道具を手放したくなかったのか、龍崎のためか、或いは俺に情が湧いたのか……。いや、それだけは有り得ないな。
 …羽取はどうするつもりだろう。俺は何とも言えない顔で羽取を見上げる。

「っ俺は、諦めない。必ず武山一樹を…」
「うん、頑張ってねえ」

 興味がなさそうに欠伸をする須藤。羽取の言葉を遮り、適当に言葉を発しているようだった。羽取の顔が嫌悪に染まる。恐ろしい顔で須藤のことを睨んでいるが、本人は全く気にしていない。流石、あの龍崎に馴れ馴れしく接することのできる人物だ。
 羽取は俺の方へと目を向ける。視線はうろうろと動いて、俺のことを探している。しかし結局視線は合わず、羽取は諦めたように視線を違うところへ遣った。

「羽取くん、龍崎さんっていつ戻ってくんの?」
「……一週間後だ」
「じゃあ、それまで武山くんは俺のものかあ。武山くん、俺が守ってあげるから安心してね」

 俺は意外な言葉に須藤を見たが、須藤は愉快そうに笑っていた。俺が守る――なんて、信じがたい言葉だ。

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