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「勿体ないなあ。こんな面白いもの見えないなんて。武山くんもそう思わない?」

 思わない。というか俺に訊くな。それに、羽取は俺のことが見えないし、見えたところで須藤の言っていることは分からないだろう。

「俺は…若が元に戻ればそれでいいんだ」
「きみも馬鹿だねえ」

 呆れたように笑う須藤は、俺に爪を立てて遊びながら言った。

「龍崎さんに助けてもらったその命、無駄にすんの?」

 俺は目を丸くして須藤に目を向けてから、羽取に視線を移す。龍崎が助けた? あの男が? 何だか想像ができず、俺を眉を顰めた。俺の顔を見た須藤は、小さく笑う。

「羽取くんてさ、カタギっぽいじゃん? でもこんなところにいるのはさ、殺されそうになったところを助けてもらったからなんだ」
「だからこそだ。俺の命は、若のもの。どうしようと若の勝手だ」
「俺には理解できないね」

 須藤は肩を竦めると、立ち上がって羽取と対峙した。俺は少し体を起こして、ピリピリとした空気を見つめる。

「――まあ、好きにすれば? 俺は止めねーよ。どうやって武山くんを追い出すのか、楽しみだね」

 冷たい声に、俺はぶるりと震える。いつもが明るい声なので、いきなりこのような声を出されると、少し怖い。羽取は悔しそうに口を噛み締めた。


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