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 この場に残るのは、俺、須藤、――そして羽取だ。龍崎とこの場を去るかと思っていたんだけど…。須藤も同じ事を思ったのか、顔を顰め嫌そうな顔で床を見た。

「龍崎さん、行っちゃったけど?」
「須藤…お前にも、見えているのか」
「は? あー、見えてるけど?」

 須藤は一瞬訝しげな表情を浮かべ、すぐににやりと笑みを作る。再び俺の顔に手を遣ると、感触を確かめるように触られる。

「俺と龍崎さんは変わった存在だからねえ」
「……俺に見えてさえいれば」
「見えてさえいれば? 殺していたって?」

 「残念だけど、武山くんを殺すのは難しそうだよ」須藤はつまらなそうに言う。俺は視線を羽取に向けた。眼鏡の奥の瞳は細くなり、須藤の背中を睨んでいる。

「殺すなど言っていないだろう」
「じゃあ追い出すの?」

 須藤の淡々とした声に、羽取の眉がぴくりと動く。図星、だろうか。俺だって出られるならここから出たいけど、そんなことをしたら…。

「羽取くん、きみ、殺されちゃうよ?」

 俺は一瞬自分の口から出た言葉だと思った。まったく同じことを考えていたからだ。

「それでも、こんな…わけのわからないものに…」

 羽取にこんなもの呼ばわりされた俺だが、あまりにも羽取が辛そうで、罪悪感で胸が痛んだ。

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