18

「俺、きみのこと気に入ってるからさ、特別に教えてあげるよ」

 内緒話をするように、俺の耳元で囁く。少し耳にかかる息がこそばゆくて、俺は身を捩った。

「あのね、龍崎さんは――っで!」

 にやにやと笑っていた須藤の顔が歪み、俺の体に倒れ込んできた。ぐえっと蛙が潰れたような声が出る。重い。

「よおクソ野郎。楽しそうだな、俺もその話混ぜてくれよ、ん?」
「あれ、龍崎さん今日帰ってこないんじゃ」
「仕事が予定より早く終わったんでな」

 俺は顔をちょっとだけだして、ああ、と思う。須藤の背中に靴が乗っている。だから須藤は体を起こせないのだ。

「あ」
「ああ?」

 須藤が目を少し丸くする。次の瞬間、俺はぎゃっと情けない悲鳴を上げた。そして俺の体を触り始める。驚いて硬直する俺の視線と龍崎の訝しげな視線が合った。

「心臓はちゃんと動いてるんだ」
「あ、まあ…」
「おいこらクソ須藤。テメェそろそろそいつから離れろや」
「ええ? だって龍崎さんが足退けないから――いててて刺さってる刺さってる!」

 須藤が痛みを訴えかけると、龍崎は鼻で笑って足を退けた。よいしょと体を起こす須藤は、何事もなかったような顔をしていた。

「――で? 俺がなんだって?」
「武山くんが龍崎さんについて薄々感づいてるから教えようと思っただけだよお」
「……へえ?」

 龍崎が目を細める。鋭いそれと、銀の髪は相変わらず美しかった。

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