17

 髪から手を放され、がつっと音と共に頭が床に当たる。散々いろんな痛みを受けたためか、髪を引っ張られた時と同じくらいの痛みしか感じなかった。更に俺は治るのが速いため、痛みは一瞬だった。

「あの…」
「ん?」

 俺は右頬を冷たい床にくっつけたまま視線だけを須藤に向けた。須藤は俺の小さい声に反応して、首を傾げる。

「龍崎…さんは、人間ですか」

 須藤の目が見開かれた。今までで一番大きくなったそれを眺め、龍崎の姿を思い出す。龍崎は人のなれの果てを喰っていた。初めて見たあの時だ。しかし、あの時だけじゃなく、龍崎はここへ肉塊を持ってきて、それを俺の前で喰らう。俺を傷つけ、血を啜る。カニバリストかとも思ったが、龍崎の姿が時々人間ではないものに見える。まるで――血を啜る銀の獣。

「どうしてそんなこと訊くの?」

 そう訊ねてきた須藤に思っていることをそのまま話すと、須藤は口角を上げた。

「ふうん、そうなんだ。きみだから分かるのかな」

 そのままくすくすと笑った須藤は、腕を膝の上に載せ、その腕に顎を置いた。


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