13

 須藤という人物が現れたのは、数分後だった。俺は仰向けでぼんやりと上を見ていて、龍崎は折れた腕をずっと眺めていた。

「はいはい、どーしたのー」

 俺はこの場にあまりにも相応しくない明るい声に驚いて目を見開いた。視線を向ける。ここからでは暗くて見えないが、声からして男だろう。いやしかし、極道の次期組長にそんな口の利き方をしてよいものなのか。

「なぁんか、凄い拾い物したって聞いたけど?」
「ああ、――須藤、テメェにゃこいつが見えるか?」

 須藤の軽い物言いを咎めることも怒ることもせず、俺の頭を踏む。髪が引っ張られて痛い。
 須藤がグッと顔を近づける。目が合った。茶髪の軽薄そうな男だ。糸目で、狐みたいだと思った。

「んんー……この薄汚いもの?」

 須藤はこっちを見たまま言った。つまり、……見えている? 薄汚い、というのは俺のことだろうか。

「ああ、そうだ」
「うん、見えるけどぉ? これが拾い物?」
「ああ」

 龍崎が俺の頭から足を外し、頷く。まじまじと俺を見る須藤は唸った。

「何が凄いのか俺良く分かんないんだけど」
「羽取にはな、こいつ見えてねえんだよ」
「……はあ? なに、眼鏡の度が合ってないんじゃないの、それ」





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