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 このまま窒息死してしまいそうだと思った頃、龍崎が手を放す。一気に流れ込んできた空気に、犬のように荒い息を吐きながら咳き込む。

「若」
「あん?」

 羽取の声がした。暗かったり視界がボヤけていたりで姿を確認することはできなかったが、聞き覚えのある声だったため、羽取と認識できた。

「食事のご用意ができました。……どうされますか?」
「……要らねえ」
「ですが、若、今日は――」

 「羽取」名を呼ぶ龍崎の声は低い。羽取は何かを焦っていたようだった。しかしそれを遮り、言った。

「要らねえ、っつってんだよ俺は」
「…承知いたしました」

 龍崎の纏う空気がピリピリとしている。会って間もない俺でも分かった。龍崎は今非常にイライラとしている。

「では私はこれで――」
「あぁ、待て羽取。須藤をここに呼べ」
「は…須藤ですか」
「今日戻ってきてるだろ」
「はい、すぐにお呼びして参ります」

 羽取は一礼すると、そのまま去っていった。須藤――一体どんな人物なのだろう。優しい人だといいけれど……といっても、極道に優しい人がいるとは到底思えない。優しい人は、もっと真っ当な職に就くだろう。

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