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 ――比喩であったが、今のは比喩ではない。本当に一瞬だけ銀の獣が見えた。しかし一度目を瞬くと、それは消えていた。呆けて龍崎を眺めていると、俺の体に激痛が走る。

「ぁ――あぐ…!」

 龍崎に握られていた腕が、本来曲がるはずのない方向に曲げられそうになっている。龍崎は愉しそうに笑う。この行為を――楽しんでいる。

「あっ、あああああ!」

 音が鳴った。それは俺が聞いたことのない、太い木が折れるような音だった。俺は理解する。腕を折られたのだ。痛みで叫び、溢れ出た液体で顔を濡らしている俺の頭には、腕を切り落とされなくて良かったという冷静な部分が存在した。

「まずは折った場合、どれくらいかかるかだな」

 龍崎が呟いたが、俺の耳には届かなかった。頭を思い切り蹴られ、腕が痛いのか頭が痛いのか一瞬分からなくなった。俺の悲鳴は何の音もない暗い牢に響き、龍崎が俺のことを冷めた目で見下ろしているのが見えた。がっと口を塞がれ、息が止まる。

「うっせえんだよ、ガキ」

 蹴られた意味を理解する。しかしそれではどうしろと言うのだ。腕を折られて、無表情でいろと言うのか。――それはそれでつまらないと言われ、殺されるかもしれない。
 ぼろぼろと零れる涙が龍崎のごつごつとした手に落ちる。龍崎が鼻で笑った。

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