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 俺が連れられてきたのはどこかしこも黒く薄暗い無機質な――まるで牢獄のようだった。場所は分からない。しかし龍崎のさきほどの言葉から考えて、ここは龍崎の家なのだろう。何故場所が不確かなのかと言うと、俺はあの場で気を失ったからである。気を失ったというのは少し違うか。俺は気を失わされたのである。恐らく龍崎だが、羽取かそれ以外とも考えられる。……いや、ないな。俺の姿は龍崎にしか見えないのだから。
 ぶるりと震えた。起きる際、水を全身に浴びたため寒いのである。もう夏が近いと言っても、水を浴びたままいるのは辛い。俺が生きていないと思ってからなのかは知らないが、痛覚があるということを知っているのだからこれは嫌がらせめいたものに感じる。

「よう、起きたか死に損ない」

 死に損ない――ああ俺のことか。確かに死に損ないというのがしっくりとくるものがある。俺の存在を語るなら死に損ないという表現が良いだろう。
 俺は力なく龍崎を見上げた。すると龍崎は不愉快そうに俺を睨む。

「……チッ」

 何か暴言でも吐いてくると思っていたが、龍崎は舌打ちをしただけだった。しかし、その直後龍崎ははっとしたように目を見開く。

「テメェ…」

 龍崎の視線は俺の脚に注がれていた。

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