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「…武山一樹。二十三歳の大学生ですね。――生きていればの話ですが」
「死んでんのか?」

 龍崎がこちらを一瞥する。探るような目だった。俺はぐっと唇を噛んで視線をコンクリートに向ける。生きていれば……って。俺は生きている。それなのに死んでいることになっているのか。

「正確には行方不明で死亡は確認されていないのですが、行方不明になって五年経つそうで、もう望みは薄いとのことです」
「そうか。つまり死んでると思ってるわけだな」

 俺ははっとして顔を上げる。龍崎は俺をじっと見下ろして、嘲笑する。

「おい、羽取」

 羽取は、はい、と静かに返事をする。龍崎は俺の顎を靴で上げると、目を細めた。

「武山一樹を家で飼う。準備しとけ」
「しかし、若……いえ、かしこまりました」

 羽取は一瞬咎めるように龍崎を見たが、すぐに綺麗な礼をすると、少し離れて電話を取り出した。俺はぼんやりと龍崎を見上げながら、龍崎の言葉を心の中で復唱する。
 俺を家で飼う……。飼う? 俺は意味を理解し、目を見開く。

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