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俺は恐々と男を見上げる。頭一つ分大きい男は口を歪めた。銀が月に照らされ、一瞬だけ見惚れる。
「テメェ、なにもんだ?」
「…お、俺は、その」
答えたくないわけではない。男がどれほど恐ろしい男だとしても、ようやっと存在を認識され会話できた人物である。ここで何か情報を得たいところである。ハイリスクではあるけれど。
しかし問題なのが、どうやって伝えればいいかである。自分でさえどういう生き物なのかも理解していないのに、どう説明すればいいのか。
「ええっと…」
どうしよう、困った。うまく言えそうにない。中々言わない俺に男がイライラとしているのが伝わり、更に焦る。
「自分でも良く分からなくて、あの、人間のような人間でないような存在というか……」
ふざけたことを言うなと殴り飛ばされるかもしれないと思ったが、予想外にも男は無言で俺を見つめた。
「おい、テメェ名前は」
まさか名前を訊かれると思わず、硬直する。自分の名なんて、暫く呼ばれることも言うこともなかっため、忘れかけていた。
「た、武山です。武山……一樹」
「――おい羽取。至急武山一樹について調べろ」
「はい」
羽取と呼ばれた男が頭を下げる。俺はそれを見ながら、名前が間違っていたらどうしようと不安を感じていた。
「俺は龍崎組の次期組長、龍崎隼人だ」
龍崎は口角を上げる。あくどい顔だと思った。
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