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「……フツーだな」
馬鹿にしたように鼻で笑った男。俺の顔のことを言っているのだと瞬時に理解し、十二人顔を赤くする。この男に比べたら、俺なんてそこらへんの雑草だ。
「おいガキ、もう一度言う。テメェはいつからあそこにいた」
もう一度言う。つまり二度目はないということだろう。俺は震える唇を動かして、なんとか答えた。「に、二時間くらい前、から…」正確な時間はわからないが、恐らくそれくらいだと思われる。男は訝しげな顔をした。
「二時間前……?」
何が引っ掛かったのだろう。俺は処刑される罪人のような気持ちで男の言葉を待った。
「気配を感じなかった……」
男が思案顔でぼそりと呟いた。それはそうだろう。俺に気配などないのだから。本来なら今も気配なんてあるはずがないのに、どうして男は俺を認識し、こうやって触れているのだろう。
「――若」
黒いスーツを身に纏った男が音もなく現れる。俺の方を不審そうに見て、男に視線を向けた。
「…どうされたのですか?」
「どうしたって、このガキが…」
「……ガキ、とは…」
再び俺を――いや、男が握っている俺の髪の方に目を向けるが、すぐに困ったように眉を顰めた。やはり、俺は見えないのだ。
男は俺と黒スーツの男を交互に見遣る。
「……羽取、テメェにゃこのガキが見えねえのか?」
「…はあ、私には若一人にしか…」
羽取と呼ばれた男は尚も困惑顔で男を見る。男は鋭い目を俺に向けた。
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