27

 その日礼二は戻ってこなくて、ああ、本当に帰ったんだなと思った。なんとなく、礼二はすぐにここへ来ると思っていた。自惚れていた。しかし奴は一週間経っても姿を現さなかった。好きとか言っておきながら、もう放置かよと自嘲する。…ほんとは、俺のこと好きじゃなかったんじゃないのか。日に日にそんなことを考えるようになり、友人たちからは何かあったのか、と訊ねられた。俺は礼二の性別は伏せ、簡単に説明した。すると、友人たちは口を揃えてこう言うのだ。

「その子のこと、好きなんだな」

 そう言われて初めて気がついたのだ。俺は――あいつが好きなのか、と。しかし気づいたからと言って、礼二からは何もアクションがない。俺から行動に移すことだってできない。何故なら俺は礼二の家も連絡先も知らないのだ。あいつのこと、何も知らなかったんだなと後悔したのはつい先日のことだ。
 とりあえず、会いたい。話をしたい。それから、礼二がもう俺のことを好きじゃなくても、俺は好きだと伝えたい。そしたら俺はこのもやもやとした気持ちから解放されると思うのだ。
 俺の願いが通じたのか、次の日、来客があった。――大きな荷物を持った、礼二だった。呆然とする俺ににっこりと笑うと、荷物を地面に置いて、呆けている俺を抱きしめる。

「礼二、何で…」
「遅くなって、ごめん」
「なんで遅く……いや、ちょっと待て。とりあえず放せ。あと中で話そう」

 うんと頷いた礼二は荷物を再び手に取ると俺の後を歩いてくる。俺は緩みそうになる頬を抑えた。












 座った直後に礼二が口を開く。

「いろいろ、話してた。これからのこと」
「春樹くんと?」
「春樹と、あいつら」

 だから時間がかかった、と礼二は言う。俺に飽きたからじゃなかったんだ、ということにほっとして、続きを促す。

「やっと、説得した」
「…説得? 何を」
「ここに住むこと」
「ああ、なる……は?」

 納得しかけて、目を丸くする。え、今何て言った、こいつ。



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