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 春樹くんのことを話そうとしたら、礼二はぽつりと呟いた。

「おれ…」
「ん?」

 小さな声だった。部屋は静かだから普通に聞こえるとは思うが、俺は耳を澄ませ言葉を聞き漏らさないようにした。

「おれ、頑張った。努力したらおれのこと、見てくれるって」

 それを想像して、胸が苦しくなる。俺は大きいけれど頼りない体をぎゅっと抱きしめる。礼二はびっくりしたようだったが、俺の背中に腕を回して抱き締め返してきた。心臓の音が心地良い。

「嫌いだったけど。勉強も習い事も頑張った。でも、あいつらは春樹にしか興味、なかった」
「礼二…」

「あ、春樹、弟。聞いた?」付け足してきた言葉に肯定の返事をする。

「お前のこと、慕ってるんだってな」
「……そんなこと、ない」
「何でそう思うんだよ」
「そういうやつ、たくさんいた。敦だって、おれのこと、ほんとは…」
「おい、礼二」

 俺はむっとして礼二を咎めた。「ほんとは、って何だよ」
 春樹くんは実際に話していないから分からないが、敦くんは、礼二のことを本当に心配していた。

「お前は敦くんのこと、信頼してないのか?」

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