19

 本来戻ってくる場所は、ここではないんだけどな。俺は苦笑を浮かべて、礼二の頭に手を置く。一瞬だけピクリと反応した体は、そこから動かずじっとしている。ぐしゃぐしゃと柔らかい髪を乱暴に撫でて手を放す。礼二が顔を上げた。迷子になった子供のような顔で俺を見上げている。
 ポケットから鍵を取り出して開けると、手招きした。

「ほら、家入れよ」

 礼二は少し迷うように視線をうろうろさせていたが、やがてゆっくり立ち上がって、こっちへ歩いてくる。俺は礼二が家に入った後にドアを閉めて、靴を脱いだ。
















 座って、俺はどう話を切り出すかな、と首を傾げた。礼二は情けない表情のまま俺を見て来るだけで、話そうとはしない。部屋はとても静かで、息をするのも気を遣うほどだった。

「…礼二。あのな、家のことだけど…」

 礼二はハッとした顔になる。その顔は少し青ざめていた。

「敦くんに聞いた。…勝手に聞いて、悪かったな」

 俺の謝罪に、礼二はぐしゃりと顔を歪めたが、小さく首を振った。

「敦…」
「ん?」
「敦、怒ってた…?」
「いいや、怒ってなかったよ。むしろ心配してた」

 そう言うと、ほっとしたように息を吐く。しかし、俺が、それで、と口にすると、顔が強張った。安心させるように微笑んで見せるが、その顔は固いままだ。

 

[ prev / next ]



[back]