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 深刻な顔をして溜息を吐いた敦くんは、苦笑すると、口を開いた。

「あいつ、――礼二から、何か家のこと、聞きました?」
「いや…特に。とにかく家に帰りたくないってことだけ」

 あんな家、と嫌悪感丸出しで言った礼二を思い出しながら言うと、敦くんはその答えを予想していたような顔で頷くと、首をちょっと傾げる。

「あいつの家のこと、聞いてくれます?」
「聞いていいのか?」
「勿論。隆さんに、聞いてほしいんです」

 言い切られて、俺は、はあ、と気の抜けた返事を返す。敦くんは、前を向いて、目を細める。

「あいつは、生まれてすぐに両親に捨てられたそうなんです」

 俺は目を見開いた。ということは、今の両親は――。

「孤児院の前だったっていうのが、不幸中の幸いですかね。その頃の記憶は、まだ物心がつく前だったのでないみたいです。そして、今のご両親に引き取られたんです」
「でもそれなら、可愛がられたんじゃ?」

 そういうイメージがあるんだけど。もしかして、礼二は自分が彼らの息子ではないから、疎外感を覚えて家に帰りたくないのか?
 頭の中で仮説を立てるが、どうやら違ったらしく、敦くんは力なく首を横に振る。

「可愛がられた――とは言い難いですね。なにせ、跡取りにするために、引き取られたんですから」
「え…?」
「子どもができなかったみたいなんです。だから、礼二を…。厳しい教育を受けさせて、そこに愛情はありませんでした。いえ、もしかしたら、少しはあったかもしれませんね。大事な跡取りですから」

 敦くんは鼻で笑う。礼二の両親を思い浮かべているのか、軽蔑した笑みを浮かべていた。

「でも……」

 ぎゅ、と唇を噛み締める。痛々しい表情だ。俺は控えめに敦くんに声をかける。「敦くん」
 ハッとすると、敦くんは小さな声で謝罪した。


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