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 講義が終わると、友人が教科書を仕舞いながら、それで、と口にした。

「どうすんの」
「え、何が?」

 新たな知識を蓄えた俺の頭の中には講義が始まる前に話していたことがすっぽり抜けていた。首を傾げる俺に、呆れた顔をする。

「犬の話。ラブラドール」
「…ああ」
「飼うの? でも大型犬はお前んとこで飼えねえだろ」
「まあ。ていうかペット禁止だし」

 「え、じゃあばれたらやばいじゃん」何を言っているのかと一瞬だけ思ったが、そうだ。こいつは俺の家に今犬がいると思っているんだ。

「ばれないようにする。とりあえず、一晩だけだし」
「ああ、じゃあ貰い手の当てはあるんだ」
「うん」

 これ以上追及してくれるなと思いながら頷く。もうこの話は終わりにしようとしたら、友人がとんでもないことを言いだした。

「なあ、今日隆ん家行っていい?」

 ドキッとする。やばい。来たら嘘がばれる。

「きょ、今日はちょっと…」
「でも今日しか見られないんだろ。……まあ、無理ならいいけどさ」

 ごめんと謝ると、さして気にした様子もなく、おうという返事でこの話は終了した。















 家に帰ってくると、礼二はいなかった。まあ、俺の方が早く帰ってくると分かっていたし、そもそも会ったばかりの奴に鍵なんか渡せない。
 このまま帰ってこなければいいのにな、と思うが礼二は一度戻ってくるらしい。それはいい。しかし、今度こそ何を言われても突っ撥ねなければ。
 決意を固めてリモコンを手に取り、テレビを点けながら座った。何か面白い番組でもやってないかとチャンネルを変えていくがどれも微妙だ。結局テレビを消して、床に寝っ転がる。そういえば朝、礼二に合わせて起きたから今日は早起きをしたんだった。眠い。ちょっとだけ寝るか…。
 俺は欠伸をして、目を閉じた。

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