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 ハアハアと息が荒い俺だったが、金山は走ったことを感じさせない。前を向いてぼおっとしているかと思いきや、俺の息が整うとこっちに視線を遣って、で、と話を切り出した。

「何だよ、さっきのは」

 説明しようとして、ハッとあることに気付く。さあっと血が引いて行く。そんな俺を訝しそうに見る金山に、頭を下げた。

「す、すみません。馴れ馴れしく呼んでしまって…!」
「はあ?」

 金山は虚を突かれたような顔をして俺を見た。

「んなの今はどうでも……つーか浩紀って呼べよ」
「ええ!? いやそれは」
「呼べ」
「は、はい」

 そして、べし、と本日何度目かになる衝撃。「あと敬語」金山はぎろりと俺を睨みながら言った。俺は怖々と頷く。
 ……あ、そういえば金山って浩紀って名前だったか。呼ぶ人が全然いないせいですっかり忘れていた。

「……で?」
「あ、えーと、やっぱり人の目が気になるというか」
「…まだぐだぐだ言うつもりかよテメェは?」

 呆れ顔で溜息を吐く。俺は先程のことを思い出して、ぎゅ、と唇を一度噛み締めた。

「俺が、嫌なんです。こ、恋人が悪く言われるのが」

 金山が目を見開いた。俺はそのまま早口で告げる。「だ、だからって喧嘩するなとは言いませんけど、やっぱり…」俺は次第に俯いていった。金山の反応が怖い。なんでテメェの言うこと聞かなきゃなんねえんだよ、とか言われたらどうしよう。
 ここから今すぐ逃げ出したい気持ちになっていると、頭に手が乗った。そしてその手は乱暴に動き、髪がぐしゃぐしゃになった。呆然として顔を上げると、俺の頭から手を放した金山がぶっきらぼうに言った。

「分かったよ」

 びっくりして金山を凝視すると、ふい、と視線を逸らされた。俺は嬉しくなって、金山の頬を両手で包んでこっちに向かせると、素早く薄い唇にキスをした。










fin.

何だか中途半端だ!
ここで漸く金山の下の名前が!
しかし呼んでもらえないかわいそうな金山。
それでも恋人という単語に地味に嬉しくなる金山。

金山は今までのことがあるので嫌われないように物凄く優しく接しています。
達也の行動や言動に一喜一憂しそうですね。

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