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 座ったら座ったで気まずい思いをすることになるのに気付いたのは、金山と向かい合って座った時だった。視線をどこへやったらいいか分からず、ひたすら水の入ったコップを見続けた。

「達也」

 突然呼ばれた名前にドキリとして顔を上げる。金山から名前を呼ばれたのはこれで二回か三回目…とりあえず、ほんの数回だ。いつもは「おい」だとか「お前」だとか呼ぶのに、卑怯だ。心臓に悪い。
 金山は先程のように呆れた顔をして言った。

「そのしけた面いい加減仕舞えよ」

 俺はバッと顔に手を当てる。そこまで顔に出てしまっていたのか。

「…すみません」
「ぐだぐだ考えねえで、テメェは俺を信じてりゃいいんだよ」

 「そうすりゃ…」金山はそこまで言って、もごもごと口を動かす。結局その続きの言葉はなかった。はっきり言わない金山は珍しい。…なんて言おうとしたんだろうか。
 それにしても、俺を信じろだなんて、金山が言うとは思わなかった。俺が信じたところで、という気持ちもあるが、そう言ってくれるのは普通に嬉しかった。暗い顔をしている俺が鬱陶しかっただけかもしれないが、人の気持ちを考えない金山だからこその感動だろう。多分今までならウゼエと言いながら殴るか無視するかだったと思う。

「ありがとう」

 するりと言葉が流れ出た。金山は一瞬ぽかんとした顔をして、ぐっと顔を顰めると俺の頭を叩いた。べし、と良い音がした。
 待って何で殴られたんだ今。不満を込めた顔で頭を押さえながら金山をじっと睨むと、耳がかすかに赤かった。え…照れてる? 金山が?


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