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 実は敬語を取れっていうのは、付き合うことになった直後にも言われた。あの時凄まれて渋々頷いた俺が未だに敬語を使っているのが気に入らないらしい。
 ぐっと不愉快そうに眉を顰めた金山が呟く。

「別に殴らねーし、怒らねーよ」

 …あれ、もしかして結構気にしてる? ちょっときゅんとした俺は割と単純かもしれない。

「…が、頑張ります」
「……そうかよ」

 怒るかと思いきや、金山は何でもない風に言った。どうやら気長に待つ気らしい。なんというか、殴られたり暴言吐かれたりしていた頃が懐かしいな。そんなに昔のことではないのに、態度が全然違うからか、はるか昔のことのように思える。まあ、はるかというのは大袈裟だけど。
 教室で暴れることもなくなったけど、やっぱりクラスメイトたちは金山の怒りに触れないようにと始終びくびくしている。いい加減慣れてもいいと思うんだけど、やっぱり今までの金山のイメージが強すぎて、変化に気づいていないらしい。だから――と、また夢の映像が流れて、ずうんとした気持ちになる。すると、隣から低い声で話しかけられた。「おい」

「その顔」
「え…」
「さっきもしてただろ。そんなに俺といるのがダリィかよ?」

 金山の冷たい視線に、びくりと震える。やべえ、気付かれていたのか。俺は慌てて首を振って否定した。

「ちがっ…! ちょっと夢を思い出してて…」
「あ? 夢?」

 俺の返答が意外だったのか金山は一瞬目を丸くして俺を見る。「……どんな」
 仕方なく、俺は夢のことを正直に話した。


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