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 思わず顔を顰めてしまう。隣を見ると、後から入ってきた金山も俺と同様に眉を顰めて前方を睨みつけている。
 ……で。入ったはいいけど、どうしよう。

「あの、何かしたいものありますか」

 大きな声を意識して出すが、自分でも何を言っているのか聞こえない。それでもかすかに声は届いたのか、ちらりとこっちに視線を寄こす金山。そして口を歪める。あ、多分、今舌打ちしたな。ぼんやりと眺めていると、突然腕を掴まれた。そしてずんずんと大股で歩いて行く。コンパスの長さが違うため、向こうは大股でも、俺は小走りだ。悔しい。言っておくが別に俺は短足ではない。普通だ。金山の足の長さがモデル並みなだけだ。
 どこへ行くのかと思えば、レースゲームのコーナーでぴたりと足を止めた。そして俺の腕を解放し、目が合うと顎をしゃくる。…え、やれってこと? それとも金出せってことか? とりあえず百円を取り出してみるも、金山は無反応。取らないってことはやっぱり俺が? それとも入れるまでやれってことか?
 俺はうんうん悩みながらレースゲームを見遣る。あ、なんだ。満員じゃん。まだ考える時間があってほっと息を吐くが、あれ待てよと口を引き攣らせる。おいおい達也。忘れたのか金山がどういう奴か。平気でカツアゲしたり財布盗んだりする奴だぞ。満員なのを満員じゃなくすることができる奴だぞ。もしかしたら今すぐやれってことかもしれない。
 頼むから騒ぎを起こすなよと恐る恐る金山を見るが、じっとレースを眺めているだけで動く気配はない。俺は驚いた。そして、自惚れた。――俺が一緒だからか、と。この前渉が暴力的な奴は嫌われるみたいなこと言っていたし。そのせいなのか、って。……自意識過剰だろうか。でも、そうだったらちょっと嬉しいなと思う。
 アーケードゲームって、ゲームによっては結構待つものだが、今までやっていた人たちは一人また一人と去って行った。それも、怖々とした表情で。誰のせいかは、言わずもがなである。多分睨んでいるつもりはない。普通に観察しているだけだと思う。でも、数か月付き合いのある俺は分かっていても、彼らはそうではない。
 ――そして俺は、思い出した。今日の夢を。

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