友達

パシリくんシリーズの番外編
山口とパシリくん






『――っていうことがあったんだよ』
「…なるほど」

 俺は携帯を耳に当てたまま溜息を吐いた。きっと、山口は憎たらしい笑みを浮かべていることだろう。その顔に痛々しい傷がなければいいんだけど。あの後山口には会っていないから怪我があるかどうか分からない。短気な金山のことだ。山口を嫌っていたようだし、キレて殴ってしまったんじゃないかと、俺は思う。電話がかかってきたときに訊こうと思っていたが、タイミングを逃してしまった。

「だから急に付き合えとか言い出したのか…」

 鬼気迫って言ってきたのを思い出す。告白もなしに告げられたそれに呆然としていたら、無理矢理頷かされた。ということで、今、俺は金山と付き合っている…一応。
 付き合えと言われた放課後のことを思い出していると、『あ』という声を耳が拾った。

『言っとくけど、嘘だからな』
「え?」

 嘘? 何が?
 眉を顰めて携帯を耳に押し付ける。言葉を聞き漏らさないように。

『君を貰うとか、そういうの。勘違いしないでな』
「あ、だ、誰が勘違いするか!」

 『そう?』そう言う声は笑いを含んでいる。む、と口をへの字に曲げると、当たり前だ、と口にした。

『それならいいんだけど』

 この言葉で、沈黙が落ちる。このまま黙っているとそれじゃあ、と電話を切られそうだ。俺は慌てて訊きたかったことを言葉にする。

「あ…あのさ、怪我とか、してない?」
『ん? ああ、大丈夫だけど。無傷だよ』

 けらけらと笑う声。……本当だろうか? 訊いたはいいが、疑ってしまう。山口がこういう時に嘘を吐くかどうか、俺はまだ分からない。怪我をしたら正直に言いそうな気もする。でも、誤魔化しそうな気もするんだよな。
 直接会って確かめた方が早いか。金山に見つかったら面倒だから気をつけないとな。

『それじゃ、達也、またな』
「あ、――うん、……え」

 ブチ、と電話が切れる。俺は目を丸くして携帯を見つめた。
 今、達也って。達也と呼ばれる時は、金山がいる時だけだった。だから、金山を煽るために呼ぶんだと…。ぞわぞわとむず痒いものが胸をくすぐり、俺は頬を掻いて笑みを浮かべた。
















fin.


次は金山を出したい!な!

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