4

 チッ。無駄な時間だったな。無言で踵を返す。すると、じゃあ、とクソ野郎が俺の背中に声をかけた。俺は無視して歩き続ける。

「じゃあ、達也は俺が貰っていい?」

 ――あ?
 足が止まる。振り返ると、今までの笑みを消し、真剣な表情をしたクソ野郎が俺をじっと見つめていた。鼻で笑おうとしたが、できなかった。……マジで言ってんのか、こいつは?

「今金山のこと好きかもしれないけど、すぐに俺に惚れさせるから」

 にやり、と。クソ野郎が挑発するように俺に笑いかける。黒い目は俺から離れない。

「……あいつは、俺の」

 言葉が詰まる。あいつは現時点で、パシリでしかない。
 もし、こいつの言ってることがマジなら。あいつが、本当に俺のことを好きだっつーなら。いや、マジでも嘘でも、好きでも嫌いでもいい。俺が手に入れなければ。――こいつには渡さねえ。
 ぎろりと睨むと、鼻で笑う。

「わりぃな。やっぱり、あいつは渡さねえ」

 クソ野郎は目を瞬かせる。俺は奴が言葉を発する前に、背を向けて歩き出す。


















 教室に戻ると、机に弁当を置いたまま座っている俺のパシリ。俺が戻ってくると、はっと顔を上げて、俺を見つめる。顔立ちは、それなりだ。俺は初めてこいつを見た時のことを思い出した。眼鏡で、大人しそうで、顔も悪くはねえ。隣にいても煩わしくなくて、腹立って殴らなくて済みそうな男。加えて席も前後だったから、俺はこいつをパシリにすることを決めたんだった。しかしここまで続くとは思ってなかったし、なにより、こんな気持ちを抱くことになるなんてな。
 眼鏡は無言で顔を見続けている俺を、戸惑ったように見る。
 達也。知ってはいたが呼ぶことはなかった名前。あいつには呼ばせてんだから、俺が呼んじゃいけねえなんて、当然ねえよな? 俺は口角を上げると、胸倉を掴んで、奴の名を囁いた。












fin.

とりあえず終わりです!金山視点はだらだら続けてもなあ、と思い、短めです。
番外編としてこの二人の今後を書く予定です。あ、勿論山口もね!

以下、登場人物紹介。

達也(たつや)

パシリくん。
金山のことが気になっている。

金山(かねやま)

山口が嫌い。
達也のことが好き。

山口 渉(やまぐち わたる)

達也の友達。
恋のキューッピッド(笑)

[ prev / next ]



[back]