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チッ。無駄な時間だったな。無言で踵を返す。すると、じゃあ、とクソ野郎が俺の背中に声をかけた。俺は無視して歩き続ける。
「じゃあ、達也は俺が貰っていい?」
――あ?
足が止まる。振り返ると、今までの笑みを消し、真剣な表情をしたクソ野郎が俺をじっと見つめていた。鼻で笑おうとしたが、できなかった。……マジで言ってんのか、こいつは?
「今金山のこと好きかもしれないけど、すぐに俺に惚れさせるから」
にやり、と。クソ野郎が挑発するように俺に笑いかける。黒い目は俺から離れない。
「……あいつは、俺の」
言葉が詰まる。あいつは現時点で、パシリでしかない。
もし、こいつの言ってることがマジなら。あいつが、本当に俺のことを好きだっつーなら。いや、マジでも嘘でも、好きでも嫌いでもいい。俺が手に入れなければ。――こいつには渡さねえ。
ぎろりと睨むと、鼻で笑う。
「わりぃな。やっぱり、あいつは渡さねえ」
クソ野郎は目を瞬かせる。俺は奴が言葉を発する前に、背を向けて歩き出す。
教室に戻ると、机に弁当を置いたまま座っている俺のパシリ。俺が戻ってくると、はっと顔を上げて、俺を見つめる。顔立ちは、それなりだ。俺は初めてこいつを見た時のことを思い出した。眼鏡で、大人しそうで、顔も悪くはねえ。隣にいても煩わしくなくて、腹立って殴らなくて済みそうな男。加えて席も前後だったから、俺はこいつをパシリにすることを決めたんだった。しかしここまで続くとは思ってなかったし、なにより、こんな気持ちを抱くことになるなんてな。
眼鏡は無言で顔を見続けている俺を、戸惑ったように見る。
達也。知ってはいたが呼ぶことはなかった名前。あいつには呼ばせてんだから、俺が呼んじゃいけねえなんて、当然ねえよな? 俺は口角を上げると、胸倉を掴んで、奴の名を囁いた。
fin.
とりあえず終わりです!金山視点はだらだら続けてもなあ、と思い、短めです。
番外編としてこの二人の今後を書く予定です。あ、勿論山口もね!
以下、登場人物紹介。
達也(たつや)
パシリくん。
金山のことが気になっている。
金山(かねやま)
山口が嫌い。
達也のことが好き。
山口 渉(やまぐち わたる)
達也の友達。
恋のキューッピッド(笑)
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