12

 ぱっと放され、俺はすぐさま抓られた頬を押さえる。

「…パシリって言われただけだよ」
「……そんだけ?」

 頷くと、がっかりした顔をする山口。何を期待していたんだろう。

「まあ、金山だもんなあ」

 うんうんと一人で納得している。俺にも分かるように言ってくれ。

「…どういうこと?」

 山口は少し考えるように視線を漂わせて、俺を捉えた。

「君は、金山が君のことをパシリだって言ったのを信じるの?」
「信じるの、って…だって、金山がそう言ったんだから――」

 山口は笑みを浮かべない。俺は何だか嫌な予感がして、一歩後退った。

「ただのパシリにキスなんてすると思う?」

 一瞬、息が止まる。

「な」

 なんだって…?
 開いた口が塞がらない。そんな俺を責めるようにじっと見て、俺の返事を待っている。

「どうして…」
「どうして知っているのかって? ……偶然だよ。偶然俺が見た先に君と金山がいて、それがキスシーンだったってだけだ。でも君はどう見ても金山を好きそうには見えないし、金山も君を好きなのかはその時分からなかった。だから、確かめたかったんだよ」
「まさか、そのために…」

 俺と友達になったっていうのか? 言葉を飲み込んで山口を睨む。山口は苦笑しながら肩を竦めた。

「まあ、最初はそのために近づいたけどさ、俺、君のこと結構気に入ってんだよ」

 嘘ではなさそうだった。無意識に力が入っていたらしい肩を楽にして、息を吐く。そして山口の言葉を思い出して、ん? と眉を顰める。

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