7

「すげー必死だな」
「当たり前だろ! 早く――」
「おい」

 俺は気づかなかった。教室が、水を打ったように静かになったことに。だから、金山が来たことも分からなかったのだ。怒りが含まれた声にびくりと震える。振り向きたくない。硬直している俺を、山口は頬杖を付きながら見ている。何なんだ、その余裕は。

「誰だ、テメェ」
「俺?」
「他に誰がいんだよ、ああ?」
「そんな怖い顔すんなって。席勝手に借りたことなら謝るからさ」
「誰だっつってんだよ!」

 金山が怒声を上げ、机を蹴る。頬杖を付いていた山口はさっと身を引く。そして、他の机を巻き込みながら大きな音を立て、吹っ飛んでいった机を見て肩を竦める。「おお、怖い怖い」そう言いながら、口角を上げている。頼むから、金山を怒らせないでくれ。金山と山口を除いたこの教室にいる人の心が一つになった。

「俺は達也の友達の、山口」
「たつや…?」

 金山の顔が訝しげなものに変わる。俺はというと、突然呼ばれた自身の名前に吃驚して目を見開いていた。名前、知っていたのか。ちら、と俺を見て山口が笑う。視線を辿った金山は達也が俺の名前だと分かったらしく、ぎろりと睨んできた。きっとテメェこいつどうにかしろよというようなことだと思う。

「あ、あの、山口」
「いつものように渉って呼べよ、達也」

 な、何言ってんだ?
 山口の意図が分からず混乱していると、大きな舌打ちの音がした。

[ prev / next ]



[back]